久目と私

- #エッセイ
くめいま / 池末笑未遠ざける音、包み込む音
私は雑然としたコンクリートジャングルで⽣まれ育ちました。太陽や⼈の熱気が蒸して籠った空気の中にいました。久⽬には、⽇差しに焦がされた草の匂いが、温かい⾵に乗って流れています。 深く息が吸える感覚を覚えて初めて、郷⾥の息のしにくさに気がつきました。久⽬に住むことができてよかったと思った出来事の⼀つです。
久⽬で暮らし始めてから、とても五感を刺激されます。特に強く感じるのは、⾳と匂い。夜⼀⼈で家にいる、まるで孤独のような時間にふと⽿を澄ませてみれば、周りはこんなにも⾳に溢れていたのだと気が付くことができます。
⾵が通り抜けていく⾳。草がさざめく⾳。⾍の声。そして時折遠くを⾛る⾞の⾳。
そんな⾳たちは、独りの私の⾝に優しく染み込むのです。
おそらく⾳の⼤きさを数値にして計測したならば、私の⽣まれ育った環境の⽅が⾼い数字で表されるでしょう。しかしその⾳は優しくはありませんでした。⽿を貫くほどの⾳で囲まれているのに、その⾳はより私を独りにしました。それはとても不思議な感覚でした。
同じように”うるさい”とか”にぎやか”とかの⾔葉で表されてしまうような、⼼地よいのとは少し違うような⾳なのに、それぞれ全く異なる感覚を私に与えるのです。周囲の賑やかさから私を切り離し遠ざける⾳と、私もその⼀部にして包み込んでしまう⾳。 そんな⾳があることを初めて知りました。
久⽬で暮らし始めてから、⾊々なことを知ります。それは久⽬では当たり前のことなのかもしれません。新しいことを⼀つ知るたびに、こんな当たり前があることを嬉しく思っています。
