久目と私
- #エッセイ
遠藤優子 公務員朝散歩と田んぼ
私の住んでいるところは久目地区の中でも、久目池田と呼ばれる比較的平らなところが多い場所です。両側を里山に囲まれ、地区の中心には上庄川の支流が流れています。その川沿いに田んぼが広がり、のどかな風景が見られます。
私は最近、出勤前の朝散歩に出かけるようになりました。それは、犬を飼い始めるようになったためです。
この犬は、去年の春頃から久目地区内を放浪していた野犬です。茶色の中型犬で、まともな食料にありつけていなかったのか、体はいつもがりがり。エサをもとめて地区内の道路の真ん中を歩き、地区民を怖がらせるような存在でした。
賢い犬で、人にはなかなか寄ってきませんでしたし、保健所が仕掛けた罠には全く近寄ろうともしません。捕獲には長い時間がかかりましたが、地域の方々の懸命な努力により、ようやく夏頃に捕獲成功。ただ、もし飼い主がいなければ殺処分になるということになりました。前の飼い主に虐げられていたのか、人に対しては強い拒否反応を示すのですが、それでも噛んだり吠えたりしない賢い犬です。なんとか殺処分を免れることができないかということで、我が家にやってくることになったのです。
すんなりと野良犬から飼い犬になることができるわけでもなく、散歩も最初から順調に、とは行きませんでした。やっと普通に(とはいえ、毎日ものすごい勢いで引きづられるように歩いていますが)散歩に出かけられるようになったのは今年の春頃。
いつものお気に入りは、久目池田の田んぼの真ん中を歩くコースです。まず、川沿いに歩いて橋の袂にある営農組合の倉庫まで向かいます。そこから橋を渡って、また川沿いを戻ってきます。田んぼと里山と川。どこにでもある何気ない風景ですが、散歩するたびに久目はきれいなところだなと感じます。朝もやがかかって幻想な時は、これを独り占めしてもったいないと思うぐらいです。
以前、我が家にイギリスの方が2ヶ月ほど滞在していたことがありました。彼もこの田んぼの散歩コースがお気に入りで、毎日田んぼの写真を取っては、フェイスブックにアップしていました。その時は、この田んぼの風景ってそんなに珍しいものかな、と思っていましたが、今なら彼が「これは美しい!」と言っていた意味がわかるような気がします。
この田んぼの風景が守られているのも、今も稲作に従事してくださっている方々、川べりの草刈りをしてくださっていらっしゃる方々がいるからこそ。この地区の人口がもっと減っていたたらこの風景を保つことができるのかしら…。そんなことにも思いをはせながら、犬と共にてくてく今日も歩いています。